年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
だから、庶民の私が融通をつけて欲しいと願うような言い方だ。

用事があるのはそっちなのに?と納得しづらい点もあるけれど、大きな会社の社長をするくらいの人なら、確かに時間は分刻みで動いているだろうと推測はできる。


「…でも、あの…私…」


まだ心の準備が出来てない。
それに、あの女性は輝のことを都築商事の御曹司だと言っていたけれど、それをまだ本当かどうか、本人には確認もしていない。

それなのに、社長の時間が取れないからという理由で、車に乗ってもいいの?
輝に事実を確かめて、それからにした方がいいんじゃない?


オロオロとしたまま答えを渋った。
その間、神田川さんは私の顔をじっと見たまま表情を変えずにいて、小さな溜息を漏らしてこう続けた。


「…社長は、貴女様もよくご存知の方のお父上に当たります。ですからどうか」


迷いを吹き飛ばすかのように言い渡し、さぁ…と言うが早いか、背中を押して車の方へと歩かせた。


「どうぞ」


後部座席のドアをスマートに開けて中へ入るように…と促す。

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