年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
降り掛かった不幸と突き付けられる現実
輝の父親が言っていた我が家の家計事情とはつまり、父が返済している借金のことだと思う。

それは、父が自分でしたものではなく、親友の借金の保証人になってしまったことで、その返済義務を背負うことになってしまったんだ。


父は昔から外面が良くて、直ぐに人の頼み事を安請け合いしてしまう性格だった。
その親友の頼みもホイホイと聞いてやって、後先も考えずに判を押した結果が、現在の家計の状況である。


母は借金の額を聞いた時、あまりの多額さに目眩がした…と言っていた。
家を出て行くとまで言いだし、荷物をまとめかけたことだってある。


でも、その荷物を抱えて出て行ったことはない。
理由は私達子供がいたからだというだけじゃなくて、母にもプライドがあったから。


「一度の失敗や過ちくらいで、さっさと投げ出しては駄目よね」


自分も懸命に働けば、必ず借金は返せると信じた。

実際、父が営む造園業は、公共事業のクジが当たった時には大きな収入が入り、借金もまとまった額が一気に返せる。母もまだデパートの正社員として勤めていたし、急に家計が苦しくなることはない筈だと見込んでいた。

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