年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
その両親の結婚記念日が、『いい夫婦の日』だと輝に言ったのは、丁度そんな話を母から聞いた後だった。

北芝電機に再就職できた私達は、入社から時々二人だけで食事をしたり、飲み会をやったりして親睦を深めていた。


輝は私の両親の結婚記念日の話を聞いて、「いい夫婦なんだろうな」と推測した。
私はお世辞にもいい夫婦だとは言えないと思って苦笑し、「そうでもないよ」と返事した。


「でも、いろんな意味で尊敬はしてる。あの両親の娘で良かった…と心から思うことがあるよ」


真面目にコツコツと頑張るひたむきさ。
真っ直ぐと生きていくことの大切さを私は両親から教わったような気がしている。



「そうか…」


輝はそう呟くと、急にくしゃっと私の髪の毛を触った。
何故か子供みたいに、撫で撫でと頭を撫でられてしまい、その何でもない行動が嬉しくて、つい涙が溢れそうになり拒否した。



「…もうっ、やめてよね」


泣きそうになるじゃない…と冗談めいて言ったけれど、実際はじんわり涙ぐんでいた。
輝には借金のことを話してもないのに、どこか心が救われた様な気がしていた。


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