年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
そっぽを向いてグラスを傾けようとしたら手を握られて胸が弾んだ。
振り向くと歪んだ視界に輝がいて、若干困惑気味な顔で「大丈夫?」と訊いた。



「…うん、多分」


多分なんて曖昧な返事をしたからだろう。
輝は私の肩を抱き寄せて、「何でもいいから吐いていい」と言ってくれた。



(言える訳がない)


そう思った私は、代わりに彼の胸を借りて少しだけ泣いた。
ずっとお金のことばかりを気にして生きてきたから、輝といる時間だけは、それが忘れられて幸せだった。



あの夜以降、輝は私に、「付き合おう」と言い出した。
私は自分には勿体ないくらいの相手だと思って、「冗談ならやめて」と何度か断った。


でも、輝は私がいいんだと言い張る。
「自分の親を尊敬している君が欲しい」と言われて、胸が大きく鳴った日のことを覚えている__。



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