秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
するといつものように歯切れの悪い返事。
「そう……だね。今度はお願いしてみようかな」
 
俺だったらお願いなんてされなくても、送ってやるのに。こんな雨の中、びしょ濡れになんてさせない。

友里の濡れた髪からしたたる雨を見ながら、そんなことを考えていた。

 その男といて、本当に幸せなのか?

 そう聞いてしまいそうになったけれど、言わずに自分の中に留める。

 こんなこと聞いて何になる?
 もし幸せだと聞いたら、嫉妬するに決まってる。逆に幸せじゃないと聞いたら……。
 その男から奪いたいと思うのか?

 冷静になろうと、ふう、とため息をついた。
 
「ちゃんと乾かせよ。風邪ひくぞ」

 立ち尽くす友里に背を向けてマンションの中に戻ろうと歩き出した。

「あの……っ、傘!」
「やるよ」
「でも!」
「いらないなら、捨てていいから」

 友里のことなんて、好きじゃない。もう終わったことだ。そう言い聞かせるのに、いつまでも彼女のことを考えている。
 不毛な恋に身を焦がすなんてバカバカしいと思うのに、強く惹かれていることは事実。

結婚している女性を好きになるなんて、あり得ない。
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