空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
12.色あせた世界
12.色あせた世界

最後に抱きしめられた後、どうやって家まで帰ったのか覚えていない。

多分、醍が車で送り届けてくれたんだと思うけどその記憶も鮮明ではなかった。

自分が放ってしまった言葉は取り返しのつかない言葉だったんだろうか。

一つ言えるのは大事な人を失ってしまったってこと。

だけど、彼のためにああするしかなかったんだって自分に何度も言い聞かせている。

彼の負担にはなりたくなかったから。

その日から私の世界は色を失ってしまった。

何も観ても、何を聞いても、実感がわかない。

実体があるのにないような世界。

そこには空(くう)しか存在していない。

掴もうとする気持ちさえ失われていた。

それでも仕事は自分を奮い立たせがんばっている。唯一没頭できる世界だったから。

醍と離れて半年が経とうとしている中、無名の芸術家たち展開催の日が刻々と迫っている。

結局創作意欲がわかないまま、私は自分の作品を応募せずにいた。

当然、応募締切日も過ぎていたから今さらどうしようもないんだけど。

あの日、初めて醍に愛され満たされていた時に描いたような絵はもうどうしたって描けない。

醍がいたから、醍に愛される喜びを感じていたから描けた。

スケッチブックに描いたあの絵は、額にいれてリビングにポツンと置いてある。





< 102 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop