空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
翌日の夜、醍から電話があった。

父を説得するにはもう少し時間がかかるかもしれないとのこと。

説得できたら、必ず戻るから少し待っててほしいという内容だった。

「うん、私は大丈夫だから、しっかりお父さんとお話してきてね」

そう言いつつも、心はあれからずっと泣いていた。

こんなにもお姉さんぶって一体後に何が残るっていうんだろう。

本当はすぐにでも帰ってきてほしかったのに。

醍に甘えたいのに甘えられない。

お風呂上がり、首にタオルをかけたまま冷蔵庫からビール缶を取り出す。

久しぶりに1人で飲むビールだった。

この一ヶ月、醍がここにいるのが当たり前の生活。

最初は違和感があった二人暮らしも、いつの間にかそれが当たり前になっていた。

当たり前でない状況が、今はものすごく辛い。

そばにいてほしい。

この場所に今すぐにでも帰ってきてほしい。

缶をあけると、静かな部屋にプシューッと炭酸が噴き出す音が響く。

醍がいるときはグラスに入れて飲んだビールをそのまま缶に口を付けて飲んだ。

アルミ缶の妙な後味がビールをまずくしてるような気にさせる。

以前は気にならないような些細なことが気になってくるのは私の不安がつのった時の悪い癖。

もう一度醍に電話して、帰ってきてほしいって言おうか。

スマホをじっと見つめながら、結局は電話できずにテーブルに置いた。

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