空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
そう言った彼は答えを待たずに私の唇を激しく塞ぐ。

それはさっきよりも熱くて深くて激しくて、もうこのまま離ればなれになってしまうんじゃないかっていうくらいに求め合った。

彼の愛を感じながら何度も泣いてしまいそうになるのを堪えながら、「醍」と何度も呼んだ。

どれくらいの時間愛し合ったんだろう。

彼はそっとベッドから降りると、脱ぎ捨てた自分のシャツを羽織った。

「これから家に帰るよ」

「これから?」

今何時なの?もう夜更け。ひょっとしたら朝に近いかもしれない時間かもしれない。

私は布団を胸にかけたまま体を起こした。

「俺の決意が変わらないうちに親父に会って話してくる」

「うん」

本当に行っちゃうんだ。

行った方がいいって自分から言ったくせに、寂しくて心が震えている。

「親父とちゃんと話せたらまたここに戻ってきてもいい?」

「ええ、もちろん」

彼は横に並ぶようにベッドに腰かけると、私の頭を自分の胸に引き寄せた。

「今日はいっぱい和桜にエネルギーチャージしてもらったからね。今ならうまくいくような気がする」

「馬鹿ね」

彼の胸に顔を埋めながら、鼻の奥がツンとしていた。

「きっとうまくいくわ」

彼の胸に手を当てその熱い鼓動を感じる。

「うん、俺の決意がうまくいかない訳がない」

顔を上げると、いつもの自信と輝きに満ち溢れた彼の顔があった。

「いってらっしゃい!」

私は彼の胸をポンと叩き、早く行くよう促す。

「いってきます」

醍は少し乱れた自分の前髪を掻き上げると、ジャケットを手に持ち笑顔で出て行った。

さっきまで彼がいたベッドの上の皺がとても寂しげに見える。

ここにいた人がいなくなった空間は、一人でいる時の空間よりもずっと辛い。

彼を掴んでおくことは空を掴むよりも難しいのかもしれない。ふとそんな事を思った。

「本当はずっとそばにいてほしいんだけどね・・・・・・」

そう呟きながら溢れる涙を手の甲でぬぐい、布団に顔を埋めた。













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