【最愛婚シリーズ】極上CEOにいきなり求婚されました
ひよりに勇気づけられたものの、自分の気持ちの整理が出来ず前に進めない日が続いていた。

そんななか、勢いでOKしてしまっていた結婚相談所で紹介された相手とのお見合いがあった。

あのときの返事を後悔したけれど、行かないとなると先方に迷惑がかかってしまう。

断るという選択肢しかないのに、それでも行くことは憂鬱だった。

しかしこれも自分がまいた種だ。せめて相手に失礼のない態度で過ごそうと、指定されたホテルのカフェラウンジに向かった。

太陽のふりそそぐカフェラウンジは、休日ともあって多くの人がいた。

アフターヌーンティーを楽しんでいる女性や、商談をしている男性。

グランドピアノの演奏がされるゆったりとした空間で、みながそれぞれの時間を過ごしている。

「いや、あの。お写真で見るよりもずいぶん綺麗な人で緊張しますね」

目の前の彼はそう言ったけれど、そんなふうには見えなかった。都内の私立学校の教師だという彼は、イケメンではないけれど、清潔感がある人だ。

マナーもきちんとしていて、こちらを不快にさせるような態度も言葉もない。

「ありがとうございます。お世辞でもうれしいです」

差し障りのない言葉で返して、彼の会話に耳を傾けながら思った。

もしケイトと出会う前に彼と会っていたら「いい人と出会えた」と思ったに違いない。

過不足ない彼は、おそらく相談所の中でもわたしと違って優良株だろう。

でも……まったく心が躍らない。

彼の隣に立つ自分を想像して、居心地の悪さを感じてしまう。

けっして彼が悪いわけじゃない。原因のすべてはわたしにあるのだ。

やっぱり会う前にお断りするべきだった。相手の彼にも失礼だった。

ため息をつきそうになって、慌てて目の前の紅茶のカップを手に取る。

その瞬間目の端で捉えた人物に、釘付けになってしまった。
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