総長さんが甘やかしてくる③
仕事を決め、朝から夜まで働き
当時は工事現場で肉体労働もしていて家には寝に帰るだけといった日々が続いた。
霞がうちに寄った形跡はあっても顔を合わさない毎日を送っていて、一ヶ月ぶりに会ったとき。
「おかえり!」
霞は、霞のままだった。
当時、俺にまつわる黒い噂が広がっていた。
高校を辞めたあと遊び呆けているだとか。
ヤバイものを売りさばいて生活しているだとか。
いずれも林さんと木良が辞めたことを快く思わない連中が流したものだろう。
そんなこともあり
黒梦のメンバーは、およそ半数まで減った。
俺は、抜けるやつを引き止めはしなかった。
単純に俺をよく思わない奴らは消え
俺についてくる奴らが残った。
そいつらが、当時の話を口にするのはタブーとされた。
もっとも林さんと木良と俺の間に起きたことを知る人間は今の黒梦には、いない。
なにが起きたのかわからない。それでも、無条件に俺を信じ、総長と認めた連中が今の黒梦にいる。
だからこそ俺は、あいつらを信用できるし、あいつらになにかあれば守らなければならないと思えるのだろう。
新しい関係なんて求めていなかった。
ましてや女と遊ぶ気になんて、なれなかった。
「ねえ、幻。働きすぎて倒れないでね?」
なのに霞は、
以前となんら変わりない態度で俺に近づいてきた。
いいや
それ以上に、俺に近づいてきた。