総長さんが甘やかしてくる③
「木良、女の子から『王子』なんて呼ばれてるんだよ。暴走族なのにねー」
そこに『元』と付けなかったのは、いつかまた木良が黒梦に戻り俺と走る未来を、霞が頭の中に描いていたからなのかもしれない。
「霞。俺、出ていくよ」
「え?」
俺の肩に乗せられた霞の手の動きが、止まる。
「職場の人が部屋貸してやっても良いって言ってくれていてな。もう俺にかまうためにそう頻繁に帰ってくるはことない」
「いいよ、幻。ここにいて」
「世話んなったな。最後に、走りに行こう。ウシロ乗れ」
「なんで……最後って……なにいってるの」
小さくつぶやく霞の声は、震えていた。
「お前みたいなやつは俺と関わるべきじゃないんだ」
「なにそれ。あたしみたいなやつって、なに」
「周りの人間を大切にしていけ。俺でなく。オヤジさんや、家族や、友人を――」
「いやだよ。そんなの……!」
うしろから、霞に抱きしめられた。
「離れたくないよ。幻」
そんな霞を、抱きしめ返そうとはしなかった。
遠ざけることだけを考えていた。
「木良に言えなかったことがある」
「……え?」
「俺は、木良を信じていた。罠かもしれないと、どこかで気づいていた。それでも稔を助けに走ったんだ」
「ミノル……って?」
「稔は俺とは違う、光の当たる場所がお似合いな人間だから。……俺が守るしかないと思った。それは霞、お前もだ」
「あたしも?」
「でも、守れない。頼むから。これ以上、俺に関わって堕ちるな」
「幻といて自分が堕ちるなんて思わないよ。もしかして、変なウワサのこと気にしてる? だったら気にしないで。どれも信じてないから。幻は、なにも間違った生き方してないよ!」