わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
それに何より、自分が動くとなると美園さんみたいに身軽に一人でというわけにはいかない。

安全面からも言葉の面からも、嶋さんは絶対に一人では行かせないだろう。結局、榛瑠の面倒を見に行く一花を面倒をみる誰か、が必要になる。

でも、屋敷に主人が戻ってくる予定とあれば、嶋さんも運転手の高橋さんも動かせない。となると誰かを雇うことになる。それも、きちんと信用がおける人間を。それを今、手配させるべきなのかな、わたし?と思うと、答えはNOだった。

美園さんなら少なくとも英語は問題ないし、度胸がいいからどうとでもするだろう。それに彼女にも言ったように、榛瑠のアメリカの会社での仕事は美園さんしか手伝えない。

榛瑠も美園さんなら余計な気を使わなくていいはず。行くならやっぱり彼女が適任だ。

榛瑠は絶対にわかってくれるはず。絶対、彼女の甘い言葉になんかに簡単に乗ったりしない。……多分。

一花は不安が胸に広がって泣きたくなった。でも、泣いちゃだめだ。泣くとここから動けなくなる気がする。

ああ、もうどうでもいい。どうでもいいから、とにかく無事な姿を見せて欲しい。それだけでいいから。

一花はたまらなくなってその場にしゃがみこんだ。

本当は泣き叫びたい。誰かに文句を言って当たってやりたい。誰に?

そこに浮かぶのは、それを許してくれる人は、一人しか思い浮かばない。

榛瑠が元気になったら、散々泣いて文句言ってやるんだから。予定通り戻るって言ったのに。ウソつき。

きっと彼は、しょうがないなあって顔をして、すみません、とか言って、笑いながら抱きしめてくれるだろう。

その笑顔を思うと、たまらなくなった。喉の奥が痛くなって、目元が熱くなる。

榛瑠、早く戻ってきて。わたしの元に。

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