わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「あ?何が?」

「なんだか全然役に立たないんだって、自覚あったけど、でも、さすがにちょっと落ち込んだっていうか」

鬼塚は返答のしようがない。そんなことはない、と悪いが一花の場合言えないからなあ。

「せめて、英語くらいもうちょっと話せるようになろうかなって」

「四条戻ったら教えてもらえよ」

「うーん、それもな、って感じです」

「なんだよ?」

「だって、忙しいじゃないですか。それに、あの人に教わるのも一長一短というか」

「一短はなんだよ」

「だって、榛瑠はすぐわかっちゃう人だし、わたしは飲み込み悪いし。そうするとお互い理解できなくてだんだんイライラしてきちゃうというか」

鬼塚は笑って言った。

「眼に浮かぶわ、それ」

「笑いますけど。昔は彼が家庭教師代わりだったんです。我慢強く付き合ってはくれるんですよ。別に怒りもしないし。でも、わたし馬鹿だし。特に数学は……」

「奴の方が普通の脳みそじゃないんだろう」

「そうだけど……。でもね、昔言われたことがあるんです。どんな難問より、あなたがなぜわからないのかをわかるほうが頭を使うって」

鬼塚は声をだして笑った。学生時代の二人が眼に浮かぶ。

「笑い事じゃないです。本当に、頭のいい人なんてキライ」

一花はふてくされた声で言った。

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