二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
「どうした……? ……っ!」

きゅっと、首筋をはむ。芽衣に首筋を吸われた学が、思わずうめいた。
さっき学にされた様に舌で首筋をなぞると彼の息づかいが徐々に荒くなってくるのが分かる。

「め……芽衣……ちょっと待って、これ以上は……」

学に身体を引きはがされる。芽衣は首を傾げた。

「これ以上はまずい。途中でやめられなくなる。明日も仕事なんだから……君に負担はかけたくない」 

そう言って、学は壁掛けの時計に視線を移す。
時刻は、まもなく夜の十時。終電までには余裕はあるが、明日の事を考えるとそろそろ帰った方がよさそうだ。

「続きは、週末に……いいよね?」

最後まで、という事を示唆しているのだと解釈すると静まりかけていた鼓動が、また大きく騒ぎ出す。

学には自分が初めてだと直接言ったことはないが、きっとそんな事は承知なのだろう。決して急いて先に進めようとはしない。

「もう遅いし、今日こそ送るよ」

さりげなく切り出してきた学に、芽衣はすぐさま首を横に振った。

「大丈夫です。電車で帰れますから」

すると、学は不満そうに顔をしかめた。

「なんでいつも送らせてくれないの?」
「自分でできる事は、自分でしたいんです」
「でも、夜道を女性一人っていうのは……」
「平気です。この時間はまだ、会社や飲み会帰りのOLさんだってたくさん歩いてますよ?」

学は納得した訳ではなさそうだが、「帰ったら必ず連絡する」という約束でしぶしぶ引き下がった。
帰り際、玄関先でもう一度キスをして抱き合うと、芽衣は急に後ろめたい気持ちに襲われた。


学に送ってもらう事はできない。
アパートがあまりに古くて狭いからだ。高級マンションに住んでいる彼が見たら、良くは思わないだろう。
もちろん学だって、芽衣が立派な家に住んでいるとは到底思っていない。それでも直接自分の貧しい部分を見せたくないと思ってしまうのは、おかしな事だろうか?
学にどんな反応されるのか想像すると、連れて行く事はできないのだ。
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