二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
部屋の中に足を踏み入れた学は、つい、その部屋の中を観察してしまった。

布団が敷かれた三畳一間のその部屋は、小さなちゃぶ台すら脇に追いやられ、部屋にいるだけなんとも言えない圧迫感がある。
一つだけある小さな窓の先は隣家の壁が迫っていて、ほとんど風が通らない。クーラーがない部屋の中は蒸し暑く、黙っていても汗が滲んでくる。

玄関のドアを開けている理由は、少しでも風通しを良くして、部屋の温度を下げるためらしい。

もし窓を締め切って、真夏の日中をここで過ごしたら、熱中症になってもおかしくはない。
律儀にお茶を淹れようとする芽衣を、布団の上に座らせると、学も脇に腰をおろした。

「僕のマンションに行こう。こんな所じゃ、治る病気も治らないし、何より女の子が住む場所じゃない!」

学は冷静に、当たり前の事を言ったつもりだった。しかし芽衣はひどく傷ついた表情で首を横に振った。

「ここにいます」
「なんで!? そんな事許可できない!」
「ここが私の家です」

その大きな瞳に、強い意識を宿していた。

「どうして君は、そんなに頑ななんだ! ここは一階なんだから、窓を開けっ放しで寝てたら、危ないじゃないか!」
「私はもう二年もここに住んでます。危ない事なんて一度もありませんでした。こんなボロ屋ですから、泥棒だって入ってきません」
「それは、運が良かっただけだ。もし入ってきたら? そこに若い女の子が寝ていたら、無事ではいられるはずがない」
「大声出して助けを呼びます」
「へぇ?」

学の中で、何かが切れた。

開いていた窓とカーテンを乱暴な動作で閉めると、芽衣の肩に手を掛け、そのまま布団に押し倒す。
芽衣はなぜこんな事をされているのか分からないと、大きく目を見開いたまま、ただ学を見つめていた。

「どうやって助けを呼ぶの?」

学は、片手で芽衣の細い両手首を束ねて押さえつけると、荒々しいキスで、唇を塞いだ。

「……! やめ、て」

芽衣は抵抗しようと、足をバタバタ動かしたが、男の体重を乗せて組み敷いてしまえば、何てことない。

ピタリと身体を合わせると、大きく上下させた胸の感触が伝わってくる。学は芽衣の着ていたTシャツをたくし上げると、露わになった柔らかな膨らみを、乱暴に掴んだ。

「っん!! ……っんん!」

大きく身体を反らせ、なんとか逃れようとする彼女を力でねじ伏せる。酷い事をしている自覚があるのに、学の身勝手な体は、どんどん熱く昂ぶっていく。
徐々に大人しくなってきた芽衣は、代わりに瞳を見開いたまま、大粒の涙を零している。
そこでようやく学は、煮えたぎる怒と欲望をグッと中に押しとどめた。

「君の事を大切にしたいだけなんだ。……どうか、拒まないで」

身も心も、全部受け入れて欲しい。学は祈るような気持ちで囁いた。
押さえつけていた両手を解放しても、もう芽衣は逃れようとはしない。
涙の跡をなぞるように、眦に口付けをすると、芽衣がぎこちない動きで、自由になった手を巻きつけてくる。華奢な手で後頭部を撫でられると、学の中の渇望が少しづつ満たされていく気がした。

「芽衣……好きだ。離さないから……」

学は優しく頭を撫でられながら、何度も愛を囁やいていた。
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