二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
自分はただの卑屈で傲慢な人間だった。そのせいで、学や初江に気を使わせていたとも知らずに。

「学さんは、私が施設を行ったり来たりしてしてた事も知ってたんですね……」

初江には以前から話していた事だ。それなら学も知っていたのだろう。

「私、怖かったんです。……学さんに、受け入れてもらえないかもしれないって」

そして何より、学との関係にどっぷり浸かってしまったら、いつか自分も、母のように、誰かに縋らないと生きていけない弱い人間になってしまうのではないかと怯えていた。

「芽衣ちゃん、いい? 自分で壁を作っていたら、誰にも本当の貴方を理解してもらえないわ。誰かに線を引かれたとしても、それを飛び越える事だってできたはず」

初江に諭すように言われ、芽衣は何度も頷いた。

ちょっと驚かれたり、同情されただけで、他人を遠ざけててしまっていたのは、実は自分の方かもしれない。
学に対しても、ありもしない偏見に怯えて、結果彼を傷つけてしまった。

「私っ……学さんに、酷い事を言って……」

いくら後悔しても、もう芽衣には、合わす顔も、謝る資格もない。

「僕の方こそ、芽衣に酷い事をした」

振り向くと、部屋の入り口に学が立っていた。ジャケットを握りしめ、息を切らしている様子から、慌てて来た様子が伺える。

「学さん!」
「あら……学、サボリ?」

遥は、来訪者に驚いた様子もなく、ニヤっと口の端を上げる。

「姉さんが何か企んでるって、母さんから連絡があったんだよ! ……芽衣、この人に変な話、吹き込まれてない?」
「失礼ね! 何も企んでないし、吹き込んでないわよ。ちょっとアンタの粘着ヘタレぶりを曝露しておいたくらいで……恥ずかしいネタを話すのはこれからよ。学は人数分のケーキでもさっさと買いに行きなさい」

姉弟間での力関係ははっきりしていて、学に拒否権はないらしい。
本当に部屋から出て行こうとする学に戸惑っていると、初江にポンと肩を押される。

「……私も行ってきます!」

慌てて学の後を追う芽衣に向かって、遥がウインクを投げる。遥にもらったチャンスを、芽衣はしっかりと受けとった。
エプロンを外して、履きつぶしたスニーカーに足を入れる。きっと扉を開ければ、その先で学が待っている。

彼に伝えたい。「ごめん」「ありがとう」そして「大好き」。

もう、傷つく事を恐れない。
そうしたら、もっと貴方に近付けるから。




おわり
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