最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 私もそれは散々迷った。やっぱり秘書の仕事は楽しかったし、培ったスキルを活かしたいなら、絶対に東京にいた方が仕事はある。でも、ここに残ってどこかの会社の秘書になれば、多かれ少なかれ東吾の噂は耳に入ってくるだろう。だったらいっそ全く違う環境に身を置いた方が、早く吹っ切れるんじゃないかと思ったのだ。

「もう引っ越しの手配もしちゃったの。今更遅い」
「いつだよ、引っ越し」
「明日」
「明日ぁ?」

 真木の声がひっくり返って、ばっと後ろを振り返る。

「明日ってお前、急すぎだろ」
「だって日程埋まってたんだもん」

 それは半分本当で、半分嘘だ。別に急ぐわけでもなし、それこそしばらく部屋を借りたままでもよかったんだけど、そうしたらズルズルと居残ってしまいそうで怖かった。勢いのまますっきりさっぱり、この一年半余りの時間を過去にしたかったのだ。

「明日引っ越しの奴がこんなに飲んで大丈夫なのかよ」
「もうほとんど荷物は送ってあるし。あとは引き渡しだけだし大丈夫よ」
「寝坊して乗り遅れんじゃないのか? 新幹線? 飛行機?」
「新幹線。三時半東京駅発」

 一人きりの部屋で夜を過ごすのも、もう限界だった。眠る前に目を閉じると東吾の顔が浮かんできて、納得して自分で決めたはずなのに、これでよかったのかなんてまた考え始めたりして。

 早く実家に帰って、あの騒々しい家族に囲まれて、何も考えずに笑って過ごしたい。
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