最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
「真人にしばらく栄化学(さかえかがく)を任せようと思う」
「兄さんに?」

 線の細い、温和な異母兄(あに)のともすれば頼りなく見えがちな横顔を思い出す。俺とは違って大事に大事に育てられた異母兄は上條を背負うには優しすぎて、でも俺はこの優しい異母兄が嫌いじゃなかった。ほとんど交流することはなかったけど、二人になれば話しかけてくれたし、なにより目が合えば笑いかけてくれた。無表情の大人ばかりの中で、その笑顔は俺にとっては貴重だった。

「いいんじゃないですか。兄さんには合ってる」

 栄化学は上條の子会社の一つだけど、経営陣がしっかりしていて、尚且つ社風がいい。今の社長の気質だろうが、それぞれが支え合おうという意識が強くて、従業員がみな穏やかだ。

「ようやく真人も本腰を入れ始めた」

 周りの評価は低いけれど、異母兄は決して無能ではない。昔から頭は切れたし、回り道した俺と違って始めから経営学に力を入れていたので、経営者としての知識や能力はむしろ俺より上だ。あとは経験と図太ささえ身に付けば、この父の跡を継ぐのも決して非現実的ではない。

 上條を、壊したい、と。
 
 そう思いながら生きてきたのは事実だ。でも実際に経営に携わって、多くの社員や上條を支えている人たちと関わって、それを守らなければならないと思うのも事実で。
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