最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 当初、東吾の親族のことも考慮して、私は結婚式はしなくてもいいと思っていた。でも、式はしなくていいよね、という話になった時、意外にも東吾自身に反対された。

『え、なんで? やればいいじゃん。親族席なんて神崎と松原でも座らせておきゃいいから』

 てっきり式なんて興味がないものだと思っていたから、その返しには驚いた。

『え、やりたいの?』
『だってお前のドレス姿みたいじゃん。え、やりたくないの?』

 やりたくない、わけではなく、やってもやらなくてもどっちでもいいか、くらいのものだったけど。

『なんかいいじゃん、家族の始まりの一歩みたいなさ。年食った時に写真見ながら思い出したりしたいなあって』

 普通の家族が、当たり前に積み重ねていく記念日を、大事にしたいんだ、と東吾は言った。その考えには私も同意見だったし、なにより東吾の気持ちを大事にしたいと思った。

 いろいろと相談した結果、冬の初めの暖かな小春日和の日に、近い親族と親しい友人のみを招いた、小さな結婚式をすることになった。

 讃美歌とバイオリンの音色が流れ、飴色につやめく分厚い扉が開いた。隣に立つ父と共に一礼し、東吾の待つ祭壇に向かって、一歩、足を踏み出す。

 左手に持つブーケは、あのお花屋さんのクマさんが作ってくれたもの。白のクリスマスローズやラナンキュラスに薄紫のリンドウで清楚にまとめたそのブーケは、クマさんと何度も打ち合わせを重ねてできた自信作だ。三度目にしてようやく聞けたクマさんのお名前は本当に「隈(くま)さん」で、聞いた瞬間に吹きだしそうになったのは内緒。

 真っ赤な絨毯の上を、一歩ずつゆっくりと進んでいく。顔を覆う薄いベール越しに、今日この場に立ち会ってくれた大事な人たちが、祝福の笑みを向けてくれているのがわかる。
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