最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 元々はメールや内線で指示を仰いだり確認したりしていたけど、忙しくなるに連れそれすら煩わしくなり、まず社長が頻繁に直接出向いてくるようになった。私も面と向かってのほうが確認しやすく、なし崩し的にメールや内線が使われなくなり、今では遠慮も躊躇もなく社長室に出入りしている。
 すぐそこにいるのに、堅っ苦しい文章なんて打ってられるか馬鹿らしい、というのが私と社長の共通の見解だ。


 社長はノックするという概念もないらしく、扉は毎回いきなり開く。

「週末のシンポジウム、プログラム届いたの?」
「まだ私の手元へは来てませんね。至急確認します」

 私のほうは一応ノックはするものの、返事は待たない。

「こちら先ほどの議案書です。あとプログラムですが、秘書室で止まってました。すぐにお持ちします」

 扉一枚隔ててはいるものの、ほとんど同じ部屋にいるようなものだ。普通は怒られそうだけど、社長は全く気にしていない。

 秘書室に出向こうとして、そういえば後で常務に届けてほしいとお使い物を頼まれていたことを思い出す。ついでに持っていこうとまたおざなりにノックをして扉を開けた、その瞬間、ゴン、という鈍い音が響いた。

 やば、と見上げたそこには案の定、麗しい額を押さえて俯く社長のお姿。

「も、申し訳ございません! 大丈夫ですか!!」

 やってしまったと真っ青になって謝り倒す私を一瞥すると、ふー、と長く息を吐く。

 まずい、これはもしや、とうとう怒らせてしまったか!
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