最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 がんばれー、おー、と一人で盛り上がっている茉奈ちゃんは放っておいて、自販機でコーヒーを選ぶ。なんだか甘いものが飲みたい気分なので、ミルクとお砂糖マシマシにしてみよう。
 ここ数日、東吾が出張で社を空けているので、比較的のんびりした日々を過ごしている。こんな風に休憩室で茉奈ちゃんとお喋りするのも、そういえば久々だ。

 ちなみに、秘書室の人間は全員、私と東吾の関係を知っている、と、思う。
 
 もちろん、私たちには社の人間には隠しておくべきだという共通の認識があった。
 社長と秘書という間柄で恋愛関係になれば、公私混同だと非難されるのは明らかだったし、人によっては愛人だのなんだのと、おかしな目で見られかねないからだ。仕事の場にプライベートを持ち込む気なんてさらさらなかったし、実際持ち込んでいられるほど暇でもなかったけど、面倒ごとは事前に回避するに限る。

 それがなぜバレたのか。答えは簡単、東吾が秘書室で私を名前で呼んだから。

 あの日は朝から過密スケジュールだったのに、更に来客予定がずれ込んで、バタバタだった。あげくチェックしたはずの会議資料にミスが発覚して、必死になって作り直していた時。

 秘書室で作業していた私を、急ぎ足で飛び込んできた東吾が呼ぶ。

「里香!」

 資料のことで頭がいっぱいだった私は、何の違和感もなくそちらを向く。

「社名が一文字、直ってない」 

 うそ、あんなに確認したのに。

 それでも東吾が示した場所は確かに一文字、荻が萩になっていた。よくある間違いなのに、と思わず額を押さえる。
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