"あやまち"からはじめませんか?




「結衣さんが俺のひとことで、めちゃくちゃ意識しまくればいいのに」


ーードキン。


「意、識?」

「そう。俺がこうやって結衣さんを抱きしめたらドキドキして」

「……っ」


「俺が結衣さんの唇に触れたら、次にどうなるかって考える」


宇佐美くんが私の唇をなぞる。


「ねぇ結衣さん」


宇佐美くんと目が合った。


「次、どうなると思う?」


バクン、バクンと心臓が今まで以上に大きく音を立てる。


どう、なる……。

その時。


「んっ……」


触れるだけのキスが落ちて来た。


「宇佐美く……」


意識なんて、とっくにしてる。

宇佐美くんと契約したあの日から、彼を視界の外に出すことなんて出来ないのだから。


彼は私からぱっと手を放すと、優しい口調で言った。


「帰りましょうか」


優しく笑う、その顔が。

私のことを思っていってくれているんだって錯覚してしまう。


でも勘違いしてはいけない。

私は一度彼を裏切っている。


今、彼は私に仕返しをしている。

命令という形で。

勘違いしてはいけない。



外を照らす夕日はまぶしすぎて、私にはちょっとかすんで見えた。



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