死席簿〜返事をしなければ即、死亡


矢井田の燃えるような瞳が、逃げ腰の北野を捉える。


たぶん、いや、間違いなく今じゃなかったら、北野は相手にもしていないだろう。


どこか古風な考えだから、矢井田のような今風なギャルは毛嫌いしていた。


でも今は、お互いが見つめ合っている。


まだ若干、北野は及び腰だったが__。


「それで、思い残すことはなにもないから」


そう言って、つま先立ちをする。


2人の身長差はあきらかで、目一杯に背伸びをしても、北野が屈まない限り唇が触れ合うことはない。


まだ迷っているのは、その先のことを考えているからだ。


キスが終われば?


矢井田は名前を呼ばれ、苦しんだ末に死ぬのか?


きっと北野はそのことを思い、心配し、踏ん切りがつかないんだ。


キスをしてしまえば、矢井田は死ぬ。


このキスで、殺してしまう__。


「お願い、わたしの最後のお願いだから」


そう言って、矢井田が手を伸ばす。


対戦者の太い首を引き寄せると同時に、北野は膝を曲げた。


2人の唇が触れ合う。


そっと、大事なものを包み込むように。


1度、2度、離れては戻り、戻っては離れ、次に口づけを交わした時にはもう、2人は深く深く繋がっていた。


お互いを貪(むさぼ)るキス。


その時、北野の表情が一変した。


「んぐぐっ、ぐご、げ、ぐ‼︎」


聞くに耐えないうめき声がした後、ようやく2人の唇が離れる。


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