懲らしめて差し上げますっ!~じゃじゃ馬王女の下克上日記~
呼びかけられた執事は、ドア近くの壁際に、姿勢正しく佇んでいる。

その瞳には落胆の感情が色濃く表れ、主人に向けて無言で首を横に振った。


「モロゾフ!?」


従順であった執事の思わぬ反抗に、侯爵は目を見開いて動揺している様子。

主人の呼びかけを無視した執事は、一歩前に出ると、ラナに向けて一礼してから、落ち着いた声で話し始めた。


「アダモビッチ侯爵家に仕えて四十余年。主人と苦楽を共にして参りました。旦那様の罪は私の罪。どんな厳しい処罰も受け入れる覚悟でございます」


毒を盛ろうとしたことを素直に認めた執事は、哀愁漂う初老の瞳に王女を映し、自身への極刑を予想している様子。

その覚悟がある上で、誠実に懇願する。


「清廉なる王女殿下、どうかこの地に生きる民をお救いくださいませ。麻薬で繁栄したいとは、誰も望んでおりません。どうか古き良き時代の暮らしをもう一度……」


それだけを言い終えた執事は、深々とこうべを垂れ、その後は顔を上げることはなかった。

領民を思っての願いに胸打たれたラナは、しっかりと頷くと、侯爵に振り向いて鋭く睨みつける。


ビクリと肩を揺らした侯爵は、二馬身ほど離れた窓辺に、背中をつけるようにして立っている。

その顔色は青を通り越して石膏のように白く、王女を恐れ、体を小刻みに震わせていた。


ゆっくりとした歩みで窓辺に近づいたラナは、二歩の距離で足を止めた。

そして侯爵の鼻先に右手の剣を突きつけると、凛とした声を響かせる。

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