こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
最上さんは口を挟まずずっと話を聞いてくれていた。時折、切なげに私を見つめながら。

「父の会社を買収する話はなかったことにしてください。引き出されていなかった貯金、あれ、本当は父の定年退職祝いに旅行をプレゼントしようとして貯めていたお金だったんです。でも、父の会社の資金の足しにします。それか、出資していただいた分、お返しします」

「まったく、喋るなって言ったのに……」

バツが悪そうに最上さんがハァと息づいた。

「そんなはした金で、お前の親父さんの会社を立て直せるとでも思ってるのか? 買収というと聞こえは悪いかもしれないが、結果的に誰も路頭に迷わなくてすむんだ。お前の勝手な意地で会社が倒産し、多額の借金を抱え残された社員はどうするんだ?」

「それは……」

わかっている。得策ではないことくらい。これはビジネスな話で、個人的な私情を挟むわけにはいかない。私の行動で、父の会社の行く末が決まる。

結婚は契約だと最上さんは言っていた。互いに気持ちがなくとも紙切れ一枚で法律上夫婦になることはできる。けれど、やっぱり私にはそんなふうに割り切れない。

「俺が必ず守ってみせる。お前のことも、会社のことも」

「え?」
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