こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
「ああ。貴斗か、今仕事終わったのか? いきなり話だなんて珍しいな」

社長という立場でありながら、父の性格は温和すぎるほど平和主義で争いごとなど好まない。しかし、今しがた耳にした上層部の闇を知らせないわけにはいかない。

俺が社長だったら、すぐさま一掃してやるのに。

自分の不十分な立ち位置に歯がゆさを覚える。

「親父。俺はSAKAIが超過債務会社になる前に買収という手を打ちたい。一刻も早くだ」

父は先日、酒井氏が倒れたことを聞いて胸を痛めていた。これまでに何度か父と買収の件に関して話をしたことはあったが、決定を急ぐ突然の申し入れに目を丸くして言った。

「それは、酒井の娘と結婚したいからか?」

「え……?」

「確か買収の条件は婚約だったはずだ。上層部を納得させる切り札がなければ……」

ああ、もう! いまさらそんな条件クソくらえだと言うのに!

「親父。そんな切り札がなくとも、とっておきの情報があるんだ。頼む、俺に力を貸してくれ」
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