こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
「そんなの、明日になれば消えてるさ。それに髪の毛もまだ濡れてるみたいだし、ちゃんと乾かして来いよ。風邪引くだろ」

喫煙者でもないのに煙草の匂いがして、雨も降っていないのに髪の毛も濡れていて、おまけにキスマークまであるとなると言い訳もできない。

なにこの人! 隣になんか座るんじゃなかった! 別のところに移動しよう。

そんなふうに後悔していると、私の目の前にチャイナブルーが現れて席を立つタイミングを逃してしまった。

「まぁ、今夜限りで俺とは二度と会わないかもしれないんだし、別にそんなことどうでもいいだろ。せっかくだから乾杯くらいはするか」

恥かしさで悶々としている私とは打って変わって、その彼はあっけらかんとしている。

そうだ。どんなに失礼なことを言われたとしても、この人とはもう二度と会わない。行きずりの男だ。そう思うと気が楽になって私はグラスを手に取った。
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