真実(まこと)の愛

「それにしても、父親って何なのかしらねぇ。
男の人は精子さえ搾り出せば、父親になれるものね。しかも、いくつになってもよ?
うちの社長……彼なんか五十代だけど、まだ父親になれるのよ?オンナはそんな歳まで、とても子宮が保たないわ。母親にはもうなれない」

礼子はグラスの中のワインをちびり、と呑む。

「倫理観はひとまず置いておいて、もし卵子が劣化していなければ、代理母に産んでもらう方法もありますが、いくら自分のDNAが引き継がれるとわかってはいても、やっぱり自分のおなかの中で育てて自力で産み出したいですよね」

麻琴はしみじみとつぶやいて、ボウモアを舌に湿らせる。

「彼ったらね、『結婚したら、子どもは礼子がほしければでいいよ』なんて言うのよ?
あの人にはもう別れた奥さんに子どもがいるからね。別にわたしとの子どもなんて、いてもいなくてもいいのよ。ただ、ビジネス上のパートナーシップをより強固にしたいために、プライベートでも『契約』を結ぼうってことじゃないのかしら?
……腹が立つったら」

……それは、なんだか、
寂しくて、哀しくて、虚しいわね。

いくらリミットが迫っているからといっても、そんな(ひと)と結婚して子どもをもうけても、それこそ離婚してしまうんじゃないか?と麻琴は思った。

「……だからね、彼からのプロポーズの返事は保留にしているの」

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