クリスマス・イルミネーション
12月24日



その日も横浜駅で待ち合わせをした。

クリスマスイブのデートだ。ツリーのはしごをしようと愛由美は意気込んでいた。

東口から、地下街、横浜そごう、日産本社ビルと抜けてみなとみらい地区へ移動する。
いずれも、まだ日が高い時間は何処か淋しい。

「夜に来たら綺麗なんだろうなあ」
「そうだな」
「夕方」

愛由美はしがみつく様に組んだ和希の腕に、頬を擦り付けた。

「また、見に来ようね」

見上げる愛由美の幸せに満ちた表情に、和希の胸が高鳴る。

「そうだな」

反対の手で、そっと髪を撫でた。
愛由美が潤んだ瞳を細めるのが嬉しかった。

マークイズで食事を済ませ、クィーンズスクエアまで辿り着いた。
三階に上がると、大きなクリスマスツリーが見えた。

「凄ーいっ、キラキラ!」

ほん少し間立ち止まり、じっとツリーを見つめていた。和希は黙ってそれに付き合う。

腕を組んだまま近づく間、愛由美は目を輝かせてツリーだけを見ていた。見上げるほどまで近付くと、愛由美は和希から手を離して、ツリーに小走りに近付いて行く。

(ったく、見た目も子供だけど中身も子供だな)

微笑みながら後をついて行った。
愛由美は輝く瞳でツリーを見上げていた、和希が隣に立つとその手に指を絡める。

「やっぱりいいね、クリスマスツリーって。今度うちにも買おうかな」
「ないんだ」
「一人暮らしの女の家にあるのも哀しいでしょ。スノーボールはあるけど」
「じゃあ、これから見に行くか? あと二日しか飾れないけど」
「えー今更~? 来年用でもいいかな? 小さいの買って、一緒に飾りつけする?」
「お」

和希が開いてる手で愛由美の顎に指をかけ、少し上を向けた。しっかりと視線を合わせる。

「それは、愛由美んちに上がっていいってことだな」
「えっ」

真っ赤になって焦る。

「へ、変な意味じゃないからねっ!」
「はいはい、判ってますよ」

優しく言う和希に、愛由美は嬉しそうに微笑んで和希の手を握った。

その時。

「和希!?」

突然の声に、和希も愛由美もそちらを見た。

駅方面から歩いて来たらしい水野薫が、目をまん丸にして立っていた。
隣にいる男と腕を組んでいる。

「新しい女ができて、別れるなんて言い出したの!? って、その人、保坂先生……?」

まずい、と和希は思ったが、もう手遅れだ。

愛由美の手が、一瞬ぎゅっと力が入った後、ゆっくり離れて行くのを感じた。
和希は水野から愛由美に視線を転じた。
愛由美はただでさえ大きな瞳を更に大きくして、和希を見ていた。

「愛由……」

愛由美は一歩、二歩と後ずさると、くるりと向きを変えて走り出す。

「愛由美!」

後を追い走り出す、水野の声がしたような気がしたがどうでも良かった。

「愛由美、待てよ!」

建物から出た、パシフィコ横浜へと続く歩道橋の上で捕まえた。
すぐさま愛由美は、か弱い力で振り払おうとする。

「離して……っ」
「聞けよ、俺は」
「駄目……っ」

大きな黒い瞳が潤んで、和希を見上げた。
不安そうな色に、和希は胸が押し潰されそうだった。

「愛由美……っ」
「もう、駄目……っ、ごめんなさい、もう逢わない……!」

二の腕を掴む和希の手を外そうと、反対の手をかける。
そうはさせまいと、和希は愛由美をしっかりと抱きしめた。

「晴……」

『晴真』と呼びかけて、やめた。もう目の前の人は別人だとはっきり判る。

「離して……っ!」

和希の腕の中でもがいた、今までとは違う、本気の拒絶だった。

「愛由美」

離すまいと、和希は更に腕に力を込める。

「話を、させてくれ」

和希は愛由美の耳元で言った。
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