クリスマス・イルミネーション
12月25日


背中に寒さを感じて、愛由美は意識を浮上させた。

体は暖かい布団に包まれている、壁に寄り過ぎていて、背中が壁に付いていると判った、だから体温を奪われていた。

(あ……ヤバイ、コンタクトしたまま寝ちゃった……)

のんびりと思いながら、異常な体のダルさを何故か考える。
身動ぎをした時、裸である事に気付いた。

(そうだ……私……)

のろのろと、昨夜の和希とのことを思い出す。

(嬉しいって思ったなんて、口が裂けても言えない……でも武藤くんは気付いてるかな……でなきゃ、しないよね、あんな事……)

いけない事だと思いながらも喜びを感じてしまった自分を恥じた。

(武藤くん……)

これまでの『晴真』との楽しかった日々を思い出す。

(私、なにやってんだろ……久々に人を好きになったのに、よりによって武藤くんだなんて……本当にもう……最低……っ)

目頭に涙が滲む。

(明日から、どんな顔して逢えばいいの……?)

涙を布団の端に押さえつけて、体を丸めようとすると、膝に温かいものが触れた。
その感触に、はっと目を開けた時。

目の前に、和希の寝顔があった。

「…………っ!?」

びっくりし過ぎて仰け反り、壁に後頭部をぶつけた。

「い……っ」

声に和希は薄っすら目を開けた。

「……!」

愛由美は声にならない声を上げる。

「……やっと起きたか」

和希は眠そうな声で言った。

「や、やっとって……」

愛由美は布団の縁を掴んで、自分の体を包み込んで隠そうとする。

「途中で気ぃ失って、動きもしないお前抱いててもつまんないから、ベッドに運んだ」
「か、帰らなかったの……!?」
「まだ聞いてないからな」
「な、何を……?」
「俺を好きだって」

愛由美は息を思い切り吸い込んでから怒鳴った。

「言わないって言ってるじゃん!」
「言わないって事は、好きなんだろ?」

断言されて、愛由美は布団に顔を埋める。

「好きじゃない」

もごもごと聞こえた言葉に、和希はこめかみに青筋を立てた。
布団の中で、愛由美の体を乱暴に引き寄せる。

「ちょ……っ、や……!」
「もう一回言ってみろ、嘘言うと許さないからな」
「嘘じゃないもんっ」
「へえ? 一晩中気持ち良さそうに声上げてたくせに」

それには、愛由美は真っ赤になって黙り込むしかない。

「言えよ、好きって。そうしたら終わりにしてやる」
「……好き、じゃない……」

小さな声で言う愛由美の横髪を、和希は梳くように掴んだ。

「どうしても犯されたいらしいな」
「バカじゃないの!? 教師と生徒なんて有り得ないの!」
「俺にはそんな事どうでもいい。お前を素直にさせてやる」

肩を掴み無理矢理仰向けにさせると、その体に覆い被さった。

「や……もう、身が持たな……っ!」
「10代の性欲舐めんなよ」
「知らないよ、そんなの……っ!」
「終わらせてほしかったら、好きって言え」

愛由美の耳元で、和希は笑いを含ませて言う。

「武藤くん!」
「和希って呼べよ」
「無理!」
「じゃあ、先生って呼ぶぞ」
「……っ!」
「先生って呼ばれながらキスされる気分、教えてくれよ」
「バカ……っ!」
「ったく、生徒をバカバカって、先生のセリフじゃないよな」

首筋を舐めながら笑いを含んだ声で言われ、愛由美は大きな瞳を潤ませた。

「武藤くん……っ!」
「和希だよ」

愛由美は懸命に首を横に振る。

「呼べよ、和希って」

『晴真』にも名前を呼べと言われた事と重なる。しかし状況が違いすぎる、とても受け入れらないと体を硬直させた。

「先生」
「……やっ」
「じゃあ呼べよ、和希だよ」
「呼ばな……っ」

言いかけた時、愛由美のお腹の虫が、可愛らしい音を奏でた。
和希は盛大に吹き出す。

「色気ねえなぁ」
「だ、だって、昨夜ご飯も食べてない……っ!」

恥ずかしそうに真っ赤になって言う愛由美の髪を、和希は愛おしそうに撫でた。
そして、それだけは身につけていた、ネックレスのチェーンを軽く引っ張って言う。

「じゃあまあ、飯食って仕切り直すか。シャワー浴びてこいよ」
「し、仕切り直しなんかしないから……っ」

もぞもぞと和希の下から這い出ようとした時、「う」と動きが止まる。

「どうした?」
「……あっちこっち痛い」
「あー」

和希は含み笑いをした。

「俺の所為だな。気ぃ失うまで付き合わせたし? お前、体、柔らかいな、いろいろ試して面白かったし」
「お前なんて言わないで! いろいろ試したって……!」
「覚えてない? 気ぃ失う前だったけどな。じゃあ、も一回やるか?」
「いい!」

真っ赤になって怒る愛由美の耳元で、和希はクスクス笑った。

「悪かった、責任とって、一緒に風呂行こう」
「え、や……っ」

愛由美の小さな体は、やすやすと和希に横抱きにされてユニットバスに消えた。
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