クリスマス・イルミネーション



横浜駅近くのマクドナルドに来た。ここは24時間営業だ、一晩語り明かしたらしい学生風の若者もいれば、出勤前と見られる会社員や終電の逃したらしい会社員もいた。
2人で向かい合わせに座り、食事をする。

「昨日、水野といたのって、うちの生徒?」

和希が言った。

「二年の田島くん……」

愛由美は小声で答えた。

「二年か……」

和希も呟く。

「水野だけだったら、俺が言えば黙ってるだろうけど、二人揃ってとなると噂になるだろうな」

愛由美は、うっと涙目になった。

和希は思考を巡らせる。

愛由美は横浜第二に来てまだ二年目、何事も無ければまだしばらくいるだろう。
田島が二年生ならば、あと一年は愛由美と顔を合わせることになる。恐らく好奇の目で見られることだろう。
そもそも教え子と関係を持った教師ともなれば、免職は免れないかもしれない。

「教師は嫌だとか言ってなかったか?」
「辞めるのと辞めさせられるのでは、全然違うじゃん……辞めたいとは思ってるけど、今すぐとは思ってなかったし……」

漠然と結婚したら辞めようと思っていた、それも予定は全くないので、一生教師かもと思っていたのに。

「そっか」

和希は優しく笑って、愛由美の髪を撫でた。

「なんとかする。心配するな」
「なんとかって……」

今更「なんでもないです」と言う言い訳は、無理だと思えた。

髪を撫でた手で、今度は頬を撫でる。
不安そうな愛由美の顔がそこにあった。

「俺の嫁になる?」

愛由美は思い切り不機嫌に溜息を吐いた。

「ダメか」
「当たり前でしょ」

飲み終えたアイスティーの氷をストローで突きながら、愛由美は唇を尖らせる。

(寿退職ならと思ってたのは事実だけど、10歳も年下なんて思いもよらないし、武藤くんまだ高校生だし、そもそも生徒となんて……もしかして、私、まだからかわれてるかしら……)

いっそ全て正直に言ってしまおうか……でも、そうしたら和希だけが悪者になってしまうかもしれない。それは嫌だった。それに自分にやましい点がないかと言われれば、後ろめたいことこの上ない。

考えて、また、うっと涙目になる。

頬を撫でる和希の手が、すっと離れた、急に空気の冷たさが増した気がした。

「とりま、俺は一回帰って、着替えてくるわ」

和希は昨日の服のままだ。

「え、あ、うん……」

勝手にこのまま一緒に学校に行けるものだと思っていた、考えてみれば鞄もなければ、制服もない。

「また後でな」

笑顔で言われて、不謹慎にも心が踊る。

また、すぐ逢えると。
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