最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ~VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました~
私は「ああ……」とだけ呟き、天を仰いだ。
 クローゼットの中、窮屈そうに体育座りをしたパツパツジャージの筋肉達磨――もとい、煉獄の暗黒龍エヴィエニス〔ニンゲンのすがた〕。
 その膝の上には、ゲーセンで取った犬のぬいぐるみが鎮座していた。
 その心細そうな表情が捨てられた子犬に見えたのは、目の錯覚だと信じたい。


 10秒ほど、功一郎とエヴィエニスは無言で見つめ合った。
 目と目が合う瞬間、好きだと……いや、なんでもないや。
 先に視線を外したのは功一郎だった。ふっと笑うと静かにクローゼットのドアを閉めた。
 すると、功一郎が眼鏡を外した。ちなみに、功一郎の眼鏡はブルーライトをカットするだけで度は入っていない。
 つまり、伊達眼鏡だ。
 この功一郎は、自分で抑えきれない感情を抱くと眼鏡を外す癖がある。
 ギギギッと、不吉で不快なSEでも聞こえてきそうな首の動きで、

「姉さん、どう言うことか……説明してくれるよね?」

 と、感情がまるで篭っていない目で私の方を見た。

「ア、ハイ。でも彼は、悪い人ではないんです。だから、その手に持ったスマホはしまってくれ、ください」

 危なかった。私が止めなかったら、即 座に通報する気満々だった功一郎。
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