ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~

同窓会


「恋人がいることを願う」か。


実松くんの気持ちはよく分かった。

でも、あまりに突然のことで、どんな顔して会えばいいのか困ってしまう。

だからつい、現場から事務所に戻って来た時、ガラスの扉越しに中を確認してしまった。


「戻りましたー」


室内に実松くんがいないことにホッとして、いつも通りに声を掛けて席へと向かう。

そして脱いだコートとマフラーをハンガーラックに掛けたところへ、事務員の平井さんが近寄って来た。


「千葉さん、実松くんと何かあった?」

「え?!」


突然の図星に驚き、声がひっくり返ってしまった。

それに対して安藤さんがこちらに顔を向けたので慌てて笑顔を作り、なんでもない風を装う。

でも隣から痛いほどに感じる視線。

そちらにゆっくりと目を向ければ、平井さんが無表情で答えを待っていた。


「どうしてそう思ったんですか?」


安藤さんには聞こえない程度の小声で質問を返すと、実松くんと私の行動が似ていたからだと言う。


「ふたりともいつも事務所の扉を何の気なしに開けるのに、今日に限って中の様子を見ていたわ。それに実松くん、1時間前に来たんだけど、珍しく千葉さんに会わずに帰ったから」

「仕事が忙しいんじゃないですか?」


実松くんが仕事を依頼するのは基本的に安藤さんだから私と会う必要はない。

時間に余裕がある時や、前回のように私に依頼した仕事に関する場合は事務所に居座り、ああでもない、こうでもないと細かいことを言ってくるけど、今日に限っては平井さんの思い過ごしだ。

でも、平井さんは首を左右に振る。


「実松くんはどんなに忙しくても、千葉さんがいない場合、卓上カレンダーの予定を見つつ、私にいつ頃帰って来るか聞いてくるの。でも今日は聞かなかった。その理由はなに?もめ事?」

「違います。喧嘩とかじゃないです」

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