ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~

「飲んで」


実松くんの手を口元から外し、ホットレモンを飲むよう促す。


「美味い」

「それは良かった。あとご飯も作るね。キッチンまた借りる。実松くんはそれ飲んだら少し寝てよ」


言うだけ言って、側を離れる。

この時の私はとにかく気合が入っていた。

まるで母にでもなったかのように、弱っている実松くんのためにしてあげられることがあればなんでもしてあげたいと思ったのだ。

廊下を歩きながら服の袖をまくり、家事の手順を考える。

気持ちが落ち着いたのはお粥が煮えるのを待っている時だった。


「それにしても綺麗にしてるなー」


家具のメインカラーはグレー。

部屋自体がホワイトを基調としているから、全体の印象はスタイリッシュ。

必要最低限の家具しか置かれていないのはまるでホテルのようだ。

家具をストレートラインを強調したものを選んでいるのも生活感を感じさせないひとつの理由。

実松くんの趣味なのか、ご両親の趣味なのか。


「でももう少し温かみがある方がいいなぁ」


私はモダンな空間よりクラシカルな、アットホームな空間を好む。

木のぬくもりさえ感じられない格式高い雰囲気は具合が悪くなくても心が弱りそうだ。


「変えたければ変えていいよ」


実松くんの寝室から出た1時間後。

お粥を運び、それを食べてもらっている間に内装の話をしたらそう言われた。


「近い将来、千葉もここで朝を迎えることになるから。落ち着かないとか言って逃げ出されるくらいなら変えてもらった方がいい」

「今、その話、する?」

「こんな風に優しくされて、こんな美味いもの食べさせられたら、もう絶対に手放したくないと思うのが普通だろ」


そう言って椅子に腰掛けている私の方を見た実松くんの目は、熱に侵され、潤んでいた。

それが妙に色っぽくて。

ふたりだけでいることを意識させられる。


「お粥、もう食べないなら、お茶碗もらうね」


話を逸らすように、立ち上がり、手が止まっていた茶碗に手を伸ばす。


「悪い。全部食べられなくて。でも美味いよ。ほんと。嫁に今すぐ来て欲しいくらい」

「またそういうこと言う」


茶碗を机の上のお盆に乗せ、茶化すように実松くんの肩を軽く叩くと、実松くんは私の手首を掴み、そのまま引っ張った。


「ちょ、ちょっと、どうしたの?」


実松くんに覆い被さるような姿勢になってしまった。

慌てて離れようと試みるも、強い力には勝てない。

体が弱ってるくせに、男女の力の差を見せつけられた気がして、意識しないようにしても意識させられてしまう。

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