ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「恭子」
さらに名前で呼ばれて。
胸の鼓動がドクンと一際大きく跳ねた。
その衝撃に言葉を失う。
「初恋の彼とはどうなった?」
掠れた小さな弱々しい声に、今度はキュウっと胸が締め付けられた。
具合が悪くても、私と志摩くんのことを気にしている実松くんの言葉に触れて、胸が熱くなった。
そこへさらに言葉が重なる。
「恭子の体、あったかいな」
実松くんが私の胸元に顔を擦り寄せる。
まるで子供のような、ペットのような仕草に愛おしいという感情が湧いてきた。
「もう少し側にいてあげようか?」
実松くんは驚いたように私の体を離し、顔を上げた。
でも、冗談で言ったわけではない。
私も経験があるから分かる。
熱が出たり、具合が悪い時、ひとりでいるのはとても心細いのだ。
各部屋にはご丁寧にもウイルスなどに対応するプラズマクラスターが完備されているし、加湿すればある程度防げる。
「いや。側にいてくれたら嬉しいけど、それはダメだ。恭子にこの辛さを味わせるわけにはいかない。今日は帰って、うがいして、手洗いして、栄養あるもの食べて、早く休んでくれ。安藤さん宛ての資料はリビングの俺の鞄の中に入っているから」
ちゃんと仕事のことを覚えていた実松くんに感心しつつ、ここで押し問答しても仕方ないと、薬を実松くんに手渡し、食器の片付けを済ませて帰ることにした。
「保存食はいくつか作って冷蔵庫に入れてあるから食べられそうだったら食べて。それと、なにかあったら遠慮なく連絡してね」
靴を履き、見送りに出てきた実松くんを見上げて、手を振る。
「じゃ、お大事に」
「ありがとうな。このお礼は必ずするから」
そんなのいいのに。
律儀な人だ。