ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「申し訳ないんだけど、少し、時間もらえないかな?」
深妙な面持ちの志摩くん。
その表情を見て、ただ事ではない気がした。
でも実松くんのこともある。
隣を見上げ、意見を伺う。
すると実松くんが背中を押してくれた。
「そこの喫茶店に行って来れば?俺は事務所で待ってるから」
「あ、うん。分かった。ありがとう。連絡するね」
私の初恋の相手だと知りながらも、気を利かせてくれる実松くんは大人だ。
逆の立場だったら、って考えると申し訳なくなる。
私は実松くんの元恋人や初恋の相手に会いたいと思わないし、用があって来たとしても席は外せない。
だって、どんな話をしているか気になるから。
それがたとえ、相手に婚約者がいたとしても。
ただ、わざわざ会いに来たのにはそれなりの事情があるのだろう。
実松くんにはあとで必ず報告することを心に決め、事務所の目の前にある喫茶店に志摩くんと入ることにした。
温かいミルクティーの入ったカップをカウンターで受け取り、先に席に着いていた志摩くんの目の前に腰を下ろす。
「連絡くれれば良かったのに。名刺、渡したよね?会えない可能性だってあったよ?」
コートを脱ぎながら話すも、返答がない。
「いったい、どうしたの?」
決して良い話ではないだろうと思いつつ、答えを待つ時間がもどかしくて、話しを振った。
すると突然、志摩くんは頭を下げた。
「すまない」
「え?ちょっと、どうしたの?なに?頭上げて」
周りの目を気にしつつ、頼むと、ようやく志摩くんは顔を上げた。
でもその顔はひどく歪んでいた。
「謝る理由はなに?」
また話すきっかけを与えた。
そうすれば、重い口を開いてくれた。
「建築の件。キャンセルして欲しいんだ」
最初は志摩くんがなにを言っているのか分からなかった。
でもキャンセルということは予約が入っているということ。
「もしかして、来月、私を名指しして依頼をくれたのって志摩くん?」
聞けば小さく頷いた。