恋を忘れた君に
モテ武勇伝の時、ななせは終始、不機嫌だった。
私は多分、あまり嫉妬しない性質なので、過去の事にまで嫉妬してしまう女の子の気持ちが分からない。
嫉妬してしまう子からは、こんな気持ち嫌だ、と聞くけれど、私からすると、凄く可愛らしいと思ってしまう。
出来る事なら、私も嫉妬してみたい。
あ、重すぎない程度に、だけど。
お店の出口に着き、私とななせはお会計をしようとお財布を出した。
しかし店員さんからは、
「もういただいてますよ。」
とにっこり笑って、後ろに立つ二人を見つめた。
私とななせもそれにつられて振り返る。
「え、いつ払ってくれたんですか?!スマート過ぎてびびる・・・。」
「本当ね?!で、幾らだった?私達もちゃんと支払わないと、流石に申し訳ないから・・・。」
ななせの言葉に、うんうん、と大きく頷く。
すると相田さんが大袈裟な迄のため息を吐き、
「はあああ・・・分かってないなあ。こう言う時は男を立てるもんだろうが、素直に奢られておきなさい。」
それに続いて、私の真似をしてか、沢渡さんが、こくこく、と大きく頷いて見せた。
「でも・・・。」
と私は言葉を続けようとするが、そんな風に言われては、何も言い返す言葉が思いつかない。
私はななせと顔を見合わせ、出していたお財布をバッグの中に仕舞い、ゆっくり口を揃えて、
「ごちそうさまでした。」
と呟いた。
相田さんと沢渡さんは満足気に笑顔を浮かべていた。
「じゃあ俺たちはこの後ちょっとぶらぶらして帰るから、二人で先に帰って貰ってもいい?」
相田さんはななせの肩を抱きながら言う。
私は心の中で拒絶の言葉を唱えた。
最後の頼みであるななせを見てみるが、嬉しそうに笑っている。
相田さんの提案を素直に聞く彼女は珍しい。