アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

皆、死んだ魚のような生気のない目で私を見つめている。その中でも、じっとりとした粘着質な視線を向けていたのは根本課長だった。


「箸をシェアするなんて、八神常務と新田さんは随分親しいようね」

「そんな、親しいだなんて……以前居た研究所で補佐をしていただけですから……」


慎重に言葉を選びながら並木主任との関係を説明していると、隣で牛肉のたたきを食べていた並木主任が口を挟む。


「それだけじゃないだろ? 俺達は一緒に住んでたじゃないか」


ゲッ! なんでそんなこと言うのよ?


「そそそ、それは、翔馬の受験の為で……誤解されるような言い方はやめてください!」

「でも、事実だろ? あ、それに温泉も一緒に入ったよな。俺の素っ裸見ておいてただの補佐っていうのはどうかと思うぞ」


……確かに見た。バッチリ見たけど、なぜそれを今ここで言う?


「あ、あれは、並木主任が断りもなく勝手に入ってきたんじゃないですかぁっ!」


ムキになって怒鳴った後、周りの鋭い視線に気付き血の気が引いていく。


もしかして、並木主任との関係を否定したつもりが、墓穴を掘ってしまったのでは……


その予想は見事に的中。同僚達が血走った目で詰め寄ってくる。なので、これには深い事情があるのだと声を上げたのだが、今度は並木主任が思いもよらぬことを言い出した。


「――でもな、俺はコイツに振られたからな……」


えっ? 私が並木主任を振った? そんなの全く身に覚えがない。むしろ振られたのは私の方なんだけど……

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