アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
どうして彼がそんなことを言うのか分からず困惑したのだけれど、私以上に秘書課の皆が驚いていた。
そりゃあそうだろう。超イケメンの並木主任を平凡女子の私が振ったとなれば驚くのも無理はない。そしてさっきと同様、並木主任のとんでも発言に一番反応したのは根本課長だった。
「新田さん……アナタ、本当に八神常務を振ったの?」
その問にプルプル首を振り否定しようとした時、隣の並木主任が私のお尻を力一杯ツネるものだから、思わず「ヒイッ!」と声を上げ椅子から飛び上がる。
「ほらな、ちょっと触れただけでこれだ」
ちょっと触れただけ? 思いっきりツネったじゃない!
文句を言おうとしたが、同僚達の目は哀愁に満ちた瞳でため息を漏らす並木主任の姿に釘付けで、誰も私を見ていない。結局、私は"八神常務を振った罰当たりな女"ということにされてしまった。
その後、皆は並木主任を囲みかなり盛り上がっていたが、主役の私はいうと、この集まりは本当に私の歓迎会なんだろうかと疑問に思うほど見事にほったらかしにされ、話し相手は栗山さんただひとり。
だが、その栗山さんにも、並木主任と付き合っていたことをどうして教えてくれなかったのだと責められる始末。
「もぉ~同期の私には本当のこと言ってよ~」
「だから、本当に付き合ってないんだから……」
なんだか居たたまれなくなり、逃げるようにトイレに立ち暫く個室に籠って時間を潰していた。でも、いつまでもこうしているワケにもいかない。
仕方なく重い腰を上げたのだけれど、トイレから足を一歩踏み出した時、横から伸びてきた手にいきなり腕を掴まれた。