アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

常務室のドアノブを強く握ったまま、根本課長が言った言葉を何度も繰り返し呟く。


根本課長も昨日の夜、社長宅に行っていたんだ。でも、どうして根本課長が? それに、社長の奥さんを"清子おば様"って親し気に呼んでいた。根本課長は社長の家族と何か関係があるんだろうか?


それが知りたくて躊躇っていたドアを開けると、愁が珍しくデスクではなく手前のソファーに座り、虚ろな目で書類を眺めていた。


昨夜はあまり寝てないものね……疲れているんだ。


「おはようございます。本日のスケジュールの確認をさせてください」


本当はすぐにでも昨日のことを聞きたかったけど、まずは仕事だ。


タブレットの電源を入れ、眠そうな顔で大きく伸びをする愁に今日の予定を報告する。それが終わると彼の前に膝を付き、根本課長のことを聞いてみた。


すると半開きだった愁の目がまん丸くなり、どうして根本課長が社長宅に来ていたことを知っているんだと逆に問い詰められる。なので、さっきの課長の言葉をそのまま伝えた。


「なるほどな、そういうことか……千尋のヤツ、自分が清子さんの姪だということは絶対に誰にも言うなって俺に口止めしておいて、自分でバラしてりゃ世話ないな」

「えっ……根本課長、社長の奥さんの姪御さんなんですか?」

「あぁ、千尋の母親は清子さんの妹なんだ。社長の身内の俺とは血の繋がりは無いが、昔から社長の家でしょっちゅう顔を合わせていたからな……親戚みたいなものだ」


そうか。愁は社長の甥っ子だもんね。奥さんの姪なら血縁関係はないんだ。

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