アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
根本課長のことになるとムキになって否定する。それがどうしても納得いかなかった。
社内の全ての人を疑えって言ったのは愁なのに……こうなったら、なんとしても根本課長が内通者だという証拠を掴んでやる!
心の中でそう叫んだ時だった。起き上がった愁の動きが止まる。
「言い忘れていたよ。昼から社長の家に新年の挨拶をしに行くことになっていたんだ……多分、今日はそのまま社長の家に泊ると思う」
「そう……じゃあ、帰りは明日だね」
「いや、明日と明後日は並木の実家に泊まる予定になっているんだ。社長の養子になっても並木の家と縁が切れたワケじゃないからな。兄貴達家族も帰って来るって言うし、正月くらい顔出さないとマズいだろ……」
愁は、母親の手料理を楽しみにしていたのにと残念そうだったが、こればかりは仕方ない。
朝食に母親が作ったおせちと雑煮を食べると「四日の夕方までには帰る」と言って出掛けて行った。
愁が居なくなり、家族三人水入らずで過ごすことになった私達は、取りあえず近くの神社に初詣に行き、その流れでスカイツリー見物をして帰って来た。
正月中の外出はそれのみ。後はマンションの部屋でのんびり過ごし、食っちゃ寝の正月だった。
そして三日のお昼過ぎ、実家に帰る母親を東京駅まで送って行く。母親は改札を入る直前、私の手を握り「早く孫の顔を見せてよ」と無邪気に笑っていた。
孫の前にまず結婚だよね……母さんの願いを叶えてあげたいけど、今はなんとも言えない状態だ。