アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「あ、そうだ。愁君とお姉さんが付き合ってるってこと、兄さんに秘密だからね」
「えっ?」
「愁君が兄さんには言うなって。だからお姉さんも言わないでね」
一応、分かったと返事をしたが、どうも釈然としない。私と愁の関係は会社の人には秘密。それは分かっている。でも、何か小さな棘が刺さったみたいな不快さを感じる。
モヤモヤした気持ちのまま席を立ちトイレに向かうと、店の外で電話をしていると思っていた大嶋専務が男性用のトイレから出て来た。
「あ、お、お疲れさまです」
思わず会社に居る時のような挨拶をしてしまい慌てて口を押さえる。が、大嶋専務は特に気にしている様子もなく私をチラッと見て「安心したよ」って呟いた。
「えっ? 何がですか?」
「早紀のことだ。アイツは同年代の男には興味がないんじゃなかと心配していたんだ」
私が首を傾げると大嶋専務は、早紀さんから愁のことを聞いていないかと質問された。
「早紀は八神常務と幼馴染みでね、ふたりは昔から仲が良かったんだ。それは大人になっても変わらず、だから私は、早紀が好きなのは八神常務だと思っていたんだよ」
大嶋専務もそう思っていたんだ……と驚いていると突然、専務が私の手を握り「君の弟に感謝する」そう言って深々と頭を下げたんだ。
「ひっ! 大嶋専務、頭を上げてください」
「いや、本当に有難う。私は、早紀とひと回り以上歳が離れている八神常務に、可愛い妹はやれないと思っていたんだ。そんなジジィと結婚しなくても若くて優秀な男はいくらでもいるからね」
ジジィって……そのジジィより、大嶋専務の方が年上じゃなかったっけ?