アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

予想もしていなかった展開に開いた口が塞がらない。以前、早紀さんが根本課長といとこだと知った時も仰天して腰を抜かしそうだったが、今回はそれの比ではない。


この気難しい大嶋専務が翔馬の義理の兄になるかもしれない。そう思うと、翔馬が不憫でならない。


程なく前菜が運ばれてきて食事が始まったのだけれど、何を食べても味がしない。そして場の空気は最悪。喋っているのは早紀さんひとりで、時々、大嶋専務が相づちを打つくらい。私と翔馬はただ黙々と目の前に置かれた料理を口に運んでいた。


そして最後のデザートを食べ終え、いよいよ厳しい質問が飛んでくると身構えた時だった。大嶋専務に電話が掛かってきたんだ。専務が席を離れると、私と翔馬は全身の力が抜け放心状態。


すると早紀さんが笑顔で「兄さん、私達のこと許してくれたみたいだね」と嬉しそうに翔馬の肩を叩くものだから、驚きで目が点になる。


「はぁ? 大嶋専務は許すなんて一言も言ってなかったわよ? どちらかと言えば、翔馬のこと気に入らないみたいだったけど……」

「そんなことないよ~翔ちゃんのことが気に入らなかったら、きっと、食事をしないで帰ってた。気に入ったから最後まで居てくれたんだよ」


あれで機嫌が良かったのか……ホント、大嶋専務って分かりにくい人だ。でもまぁ、翔馬が認められたのなら結果オーライ。特に何もしていないけど、私がここに来た甲斐があったというもの。


嬉しそうに微笑んでいる翔馬を見てホッとしていると、早紀さんがイチゴムースを頬張りながら上目遣いで私を見る。

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