アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

それから冷蔵庫に残っていた肉じゃがをおかずに朝昼兼用の食事を済ませ、暫くぼんやりテレビを観ていたが、座っているのも苦痛で、早々に自室に戻りベッドに寝転がる。


すると唯から電話が掛かってきた。


唯は開口一番『なんで無視するのよ?』と早口で捲し立ててくる。


「えっ? 無視?」

『昨夜、何度もラインして電話もしたんだよ』


唯は昨夜の九時半頃から何度もメッセージアプリを送信し、電話も掛けたと言うが、私は疲れて九時にはベッドに入り熟睡していたから、鞄の中のスマホが鳴っていたことに全く気付かなかった。


『まさか……並木主任と何かあったんじゃないでしょうね?』

「なっ、何言ってんのよ。何があるって言うの?」


確かに色々あったけれど、唯が思っているようなことは何もなかった……と思う。


『直帰したし……検査事務部で先輩女子達が怪しんでたよ。いったい、ふたりでどこ行ってたのよ?』


唯の誤解を解く為、仕方なく昨日の出来事を話すと大爆笑された。


『この寒い中、放線菌探すのに山登ったの? それもヒールで? 最悪~』 

「いい? 放線菌のことは会社の人には内緒だからね。バレたら並木主任に殺される』

『分かった。分かった。確かにバレたらマズいよね。それは約束する』


納得した唯が電話を切ると、少し後ろめたい気持ちでスマホを耳から離す。


唯がどんなに並木主任にお熱を上げても、その恋は成就しないって分かっていたから……だって並木主任には彼女が居るんだもの。


でも、並木主任の彼女って、どんな人なんだろう……

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