フルール・マリエ


訊きたい。

海外赴任ってほんと?って。

でも、普通内示されていたとしても、あまり口外してはいけないものだし、海外への店舗設置自体があやふやな話なら口外するなと釘を刺されているかもしれない。

私は従業員でもあるし、尚更言えないのかも。

「これ、食べたいの?」

じっと千紘のことを見ていたせいか、千紘は私がパスタを物欲しそうに見ていると勘違いしたらしく、千紘が食べていたジェノベーゼのお皿を差し出して来た。

「あ、ありがと。こっちも食べて」

私が食べていたカルボナーラを差し出して交換する。

「楽しくない?」

「そんなことないよ」

「仕事半分の見回りに付き合わせちゃってるしね。午後からは聖が行きたいところ行こう」

貴重な休日なのに、噂に翻弄されて千紘に勘違いさせてしまって罪悪感を感じた。

時が来たら、きっと教えてくれるはずだ。

それまでは、海外赴任のことは追いやっておこう。

「じゃあ、本買いたい」

「いいよ、食べたら行こう」

もしかしたら、千紘とこうしていられる時間は残りわずかになっているのかもしれないのだから、千紘との時間を大切にしなくては。



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