フルール・マリエ
千紘と付き合って1年が経った後の休日、お祝いにディナーを食べる事にした。
私が持っている中で1番お洒落だと思っているワンピースを着たことは正解だった。
夜景が見える窓側の席に通されて、ウエイターがタイミング良く私の椅子を滑らせる。
窓の外には煌めく夜景、テーブルのグラスも食器も照明を反射して輝いているし、目の前でメニューを開いているだけの千紘も眩しさを感じる。
車で来ているので千紘は飲めないが、飲んでもいいよ、と促されたものの私もソフトドリンクにした。
「こういうところ、緊張するんだけど」
「普通にしていればいいよ。ほら、窓の外を見て少しは落ち着いて」
こういう場での普通を取り繕うのも大変なことだけど、千紘はお構い無しだ。
闇にオレンジや白色の街灯や車のヘッドライトが動き、ゆらゆらと動きのある夜景が一面に広がっている。
空に星が見えることは滅多にないけれど、地面にはこんなにも美しい輝きが広がっている。
ふと、視線を感じて前を向くと千紘は夜景も見ずに私の方をじっと眺めていたようだった。
「な、なに?」
「綺麗だなぁって思って」
「夜景ならこっちだけど」
「俺にとっては夜景より聖の方を見てたいから、どうぞお構いなく」
こういうことを恥ずかしげもなくあっさりと言ってのけられると、どうしたらいいのかわからなくなる。