フルール・マリエ


付き合って1年はあっという間に過ぎた感覚だった。

職場で毎日見ているけれど、こうして2人で気兼ねなく話したりする時間は思ったよりも少なかったかもしれない。

思い出話を語り合いながら、美味しい食事に舌鼓を打ち、店を出ると車で向かったのはシーサイド。

波打つ黒い海にビル群の光が反射して、さっきとはまた違う夜景が楽しめる場所だった。

「千紘は綺麗なところばかり知ってるね」

「全部、聖に見せたいからだよ」

千紘は海が見えるように正面向きに車を停めると、目の前に突然白い花束が差し出された。

「俺とずっと一緒にいてほしい」

「え・・・」

「聖。結婚して」

夜景に照らされた、緊張気味の千紘の瞳が私を離さない。

遠くで船の汽笛の音が響くだけで、他の音は聞こえない程の静寂。

唇を開こうとして、思いのほか渇きを感じていることに気づいた。

早鐘を打つ鼓動を落ち着かせるように、千紘には気づかれないくらいの細い息を吐き、視線を白い花に移す。

「ちょっと、考えさせて・・・」

千紘はどんな顔をしただろう。

イエス以外の答えなど予想していただろうか。

予想していなかったとしたら、私は千紘を傷つけていることになる。

「うん。わかった」

あっさりとした返事に顔を上げると、無理に笑みを浮かべようとしている千紘の顔があって、胸を締め付けられそうになった。



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