君の手が道しるべ
「どうでした? 池田産業さん」

 席に戻るなり梨花が声をかけてきた。
 
 何気ないふうを装ってはいるけど、二重の意味で内心穏やかではないはずだ。ひとつは当然、池田産業の契約が取れるかどうかで、もうひとつは、大倉主査が私に同席を要請してきたこと。そういうことを、梨花は異常に気にする。

「うーん……どうかな。一応、話は聞いてくれたけど。その場で断るような冷たい人ではなかったよ」

 私は素直な感情を口にした。梨花が腕組みをして、

「それって、ほとんど決まりのパターンじゃないですか?」

「いやいや。検討しますはお断りと同義でしょ。あれで決まりのパターンなわけないよ」

「永瀬さんって、そういうとこほんと弱気ですよね。私だったら検討しますは申し込みますと同義だけどな。っていうか、そういう方向に持っていきますけど」

「……それは藤柳さんだからそう思うんだよ」

「そうですか? だって、大倉主査がわざわざ設定してくれてる案件でしょ? 私なら絶対その場で決めますよ! で、大倉主査と祝杯あげに行くんです」

 胸元で手を握りあわせて、梨花はにっこりと笑う。男ウケする鉄板の笑顔だけれど、あいにく私は女なのでなんの効力も発生しない。

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