君の手が道しるべ
「じゃあ次の案件は藤柳さんに回すように、大倉主査に言っておくわ」

「ほんとですか~?! やったぁ」

 薄いピンクのスカートの裾をひらひらさせて、梨花は自席に戻っていく。なるべく音がしないように気をつけつつ、私はまた特大のため息をついた。

 机の上に広げた池田産業のファイルに視線を落とし、面談内容を思い出そうとしたが、頭のなかで梨花の言葉がリフレインして集中できない。

『契約の方向に持っていく』

 そうか、と思った。
 私にはそれができないのだ。
 運用に関しての決断はお客様のもので、私たちはその決断のための情報提供やアドバイスをするものだと思っていた。どんなにお客様のことを思った提案であっても、するかしないかはお客様が決める。そういうものだと思っていた。
 
 ――やっぱり、向いてないんだな、この仕事。

 自嘲気味に唇をゆがめ、私はそっとファイルを閉じた。
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