君の手が道しるべ
「それは私でもぶっ壊されたと思っちゃうなぁ。いきなり横から口出しされて、提案終了でしょ? まあ、あんたはなんの理由もなくそんなことする人じゃないと思うけど、とにかくどうしてそんなことになったのよ?」

 史子に訊かれ、私は言葉を選びながら、

「理由なんて、たいしたものじゃないけど、太田さん……そのおじいちゃんね、なにかちょっと悲しいことがあったんじゃないかって気がしたの」

「……はぁ?」

 史子の眉根がぎゅっと寄せられる。美人がこういう顔をすると迫力が増すので、できればやめてもらいたいのだけど、本人には自覚がないらしい。

 私が史子の部下だったら泣いてるなと思いつつ、私は話を続けた。

「藤柳さんは気づいてなかったみたいだけど、そもそも、提案を聞いてる感じじゃなかったの。心ここにあらず、って感じで、なんだか別のことを考えてるみたいで。その、別のことがなんなのかはわからないけど、たぶん、悲しいことがあったんだと思う」

「……」

「太田さんはいい人だと思うし、提案すれば何かしらの契約はもらえると私も思う。でも……それは今じゃないんじゃないかって思ったの。太田さんがちゃんと話を聞いてくれるときに、また提案しなおすべきだって。藤柳さんの勢いに押されて契約なんて、絶対ダメだと思ったのよ」

 史子はじっと私の顔を見つめていたが、やがてふっと視線をそらし、手にしたビールを一気にあおった。

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